「スイスは食品製造に最適な場所ではない」 それでも国外移転しない理由は
ラスクなどの定番商品で知られるスイスの製菓大手フーグ(HUG)は、約150年前から創業家が代々オーナーを務める伝統的ファミリー企業だ。だが今のトップ2人は人工知能(AI)を広告制作に使ったり企業買収を進めたりと、新しい技術や戦略に果敢に挑む。それでいて、高コストのスイスでの製造にこだわり続ける理由とは?
本社のある中央スイスに深く根ざした企業、フーグ。しかし、売上げの14%を国外で達成するなど、今や外国市場が成長の牽引役だ。スイスインフォはルツェルン州マルタースの本社を訪ね、共同CEOのアンナ・フーグ氏とマリアンネ・ヴュートリッヒ氏にインタビューを行った。5代目フーグ氏は市場部門を、外部出身のヴュートリッヒ氏は事業運営を率いる。2人は高コストにもかかわらず全ての製造工程をスイス国内に留め置く理由や、海外大手への身売りが選択肢に無い理由について語った。
スイスインフォ: 2人は共同経営者としてそれぞれフルタイムではなく、パートタイムで勤務しています。具体的に仕事はどう進められていますか?
アンナ・フーグ:リーダーシップを分担する今のやり方にお互いとても満足しています。この二頭体制が順調なのも、互いの責任の線引きが明確だからです。もちろん密な連絡や調整は欠かせませんが、そのための時間は様々なアイデアを一緒に話し合う機会にもなっています。
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フーグにとって国外市場の重要性とは?
フーグ:現在、当社売上げの14%を輸出が占めます。スイス国内のポテンシャルには限りがあるため、国外市場は今いちばんの成長分野です。
輸出の主力は「タルトカップ」で主に業務用です。地理的には近年成長著しい欧州市場の重要度が最も高く、輸出先の5割を占めます。次は米国ですが、この10年で中東や、最近では極東にも販路を確立しました。
我が社の規模から現地子会社の設立は難しいため、現地の輸入代理店とタイアップしています。米国や日本など一部の代理店は、現地に暮らすスイス人が経営しています。これら輸入代理店との競合を避けるため、当社のオンライン直販では国外向けの販売はしていません。
米国がスイスからの輸入品に課す関税の影響については。
フーグ:米国市場は我が社にとって最大の単一市場です。もちろん現米政権が導入した関税はフラン高(目下過去10年で最高に迫る)もあいまって大きな問題ですが、危機的状況とはいえません。
フーグは「リモニーナ」(ライムジュース製品)と「ドブラ」(デコレーション用チョコレート)という2つの外国ブランドをスイスで販売していますが、こうした外国産製品の流通も成長分野に数えられますか?
フーグ:いえ、必ずしも。スイス進出のため我が社の販路を利用したいといった問い合わせはよくありますが、成長分野とはみなしていません。
2024年のブランドコラボ製品「DAR–VIDA/オヴォマルティーネ」チョコレートクッキー用の広告キャンペーン外部リンクではAIを採用しました。この試みはどう評価しましたか?
フーグ:一番の動機は、AI技術が広告産業に浸透している中でAIの経験値を得ることでした。このキャンペーンでは3種の互いに補完し合うAIツールを使い1000以上のプロンプトを作成しました。結果的に経費がいくばくか、労力もわずかながらセーブできました。最も大事なのは、キャンペーンに対し顧客から一切苦情が寄せられなかったという点です。
今後AIは劇的に進化するでしょう。しかし、だからといって従来型の広告キャンペーンをお払い箱にするわけではありません。例えばこのクリスマス商戦は伝統的なスタイルで行いました。
フーグは非上場のファミリー企業であり、会計報告を公開する義務はありません。にもかかわらず、2024年は世界全体と部門別の両方で売上げ(1億3100万フラン)や売上げの増減(前年比4%増)など重要な数値を公開しています。なぜでしょう。
フーグ:利益率など公表しない数字もありますが、私たちは比較的オープンな会社です。現在そして将来の社員を始めとするステークホルダーのためにも、透明性あるコミュニケーションや定期的にメディアで存在感を示すことを重視しています。
1995年以降に買収した企業にはスイス企業4社が含まれます。統合の進捗は?
マリアンネ・ヴュートリッヒ:一部の統合には10年以上を要しましたが、現在いずれも生産ラインを含め完了しています。その結果傘下に集まった多くのブランドは、現在フーグ、ヴェルンリ、DAR-VIDA(ダルヴィーダ)、フーグ・フードサービスの4つに収斂されました。
新たな企業買収は考えていますか?
ヴュートリッヒ:可能性は排除していません。外国企業の買収を検討する用意もありますが、その場合、手続きはより複雑です。
ネスレやダノンなどライバル企業の多くは多国籍企業です。その中でどう競争力を保っていけるのか?事業の売却を考えたりはしませんか?
フーグ:私たちファミリーの事業を大手コングロマリットに売却するつもりはまったくありません。当社の明確なビジョンは一族の背景や伝統の裏打ちがあればこそ。私たちは根っからのファミリー企業で、そこはステークホルダーにも評価されているはずです。意思決定が迅速なのも小さな同族会社だからです。さらには生産拠点をスイスから動かすつもりもありません。そのために生じるコストを削減するため工場も高度に自動化されています。1つの生産ラインで多種類の製品を作らねばならないため、完全な自動化ではありませんが。
グローバル市場において、スイスの食品会社は外国の競合相手に比べ不利ですか?
ヴュートリッヒ:スイスは食品製造に最適な場所とはいえません。外国メーカーに比べ賃金が高く、その上農業ロビーが強力なため、小麦粉や砂糖、牛乳など原材料の価格も2〜3倍になります。「スイス製」ラベルの要件を満たすには材料の大半を国内で調達しなければならないのです。我が社に限らずスイスの焼き菓子メーカーの輸出量が少ないのには理由があります。
スイス国内のコスト上昇を避けるために、バックオフィス機能(会計やITなど)をより物価の低い国にアウトソーシングする可能性は?
ヴュートリッヒ:まったく考えていません。私たちにとって「スイス製」とは、最低限の法的要件(価値の8割をスイスで創出する)を満たすにとどまらず、全バリューチェーンをスイスに置くことを意味するからです。そこにはバックオフィス機能も含まれます。
国際市場でビジネスを行う大小の食品会社がスイスに多く集まっているのはなぜでしょう。食品業界におけるクラスターの形成はフーグにとって有利ですか?
ヴュートリッヒ:スイスは伝統的に高品質の食品製造に強く、関連する技能実習や大学の学部も豊富です。プランテッド(植物ミート製造企業)などスタートアップの成功例もあります。私は、数の多さは我が社にとってマイナスよりもプラスに働くとみています。例えば有能な人材が欲しい場合がそう。もちろんこうした人々は転職リスクも高いのですが。
一方でスイスの食品業界は今、苦境に立たされています。オーナーの入れ替わりが激しく、その状況は今後も続くでしょう。このことは必ずしも悪くはありませんが、従業員は不安を感じます。オーナーチェンジが工場の閉鎖や大規模な人員削減を伴う場合もあります。最近の例では、乳製品メーカーのHSN(ホッホドルフ・スイス・ニュートリション)が投資会社に買収された際、生産体制が大幅に縮小されました。
糖分や脂肪分の多い食品への懸念が高まっています。こうしたトレンドにはどう対応していますか?
フーグ:確かに最近はヘルシー指向です。当社には全粒粉ベースのスナックDAR-VIDAという製品があり、そうしたトレンドにも十分応えられますが、総じて消費者は当社の製品を非常に意識的に摂取しているという印象です。つまり、甘くて脂肪分があるからこそおいしい、というものを少量ずつ楽しんでいるのです。大事なのは適量です。
既存の製品から糖分を減らす実験もしましたが、正直、消費者の反応は芳しくありませんでした。しかし、新製品の開発に当たっては、おいしいと感じるに必要最低限の量の砂糖と脂肪分を見極めるようにしています。一方で消費者が求めるもの――例えば低脂肪低糖分――と、消費者が実際に買って食べるものが一致しないケースが多々あることも事実です。
フーグはサステナビリティを重視しています。この点に熱心に取り組むことで顧客が増える、あるいは価格を高めに設定でき長期的利益率がアップする、または優秀な従業員が集まり離職も防げるなどの効果はありますか?
フーグ:私たちにとってサステナビリティは、原材料や包装、エネルギーや気候、インフラと工程、廃棄物管理、従業員や雇用に至るまで様々な分野で非常に重要な要素です。フーグ家が150年にわたり発展できたのも、サステナビリティが一族のDNAに刻み込まれているからだというのが私の信念です。したがって、今列挙されたような効果は全て、長期にわたるサステナビリティ追求の賜物となります。
ただし例外は高価格でしょう。競争の激しい業界ですから。一方で現在トレンドであるサステナビリティは、膨大な報告義務という深刻なマイナス面を抱えてもいます。中小の企業には普通まだその義務がありませんが。
編集:Virginie Mangin/ds、英語からの翻訳:フュレマン直美、校正:ムートゥ朋子
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